第0話
理由はハッキリしていた。ウチがみかん農家だからだ。
お父さんは役場にも勤めながら、収穫に追われ選果に追われ、出荷に追われ・・・みかんがギッシリ詰まったコンテナと段ボールが積み上げられた倉庫を休みなくバタバタと動き回るお父さんの姿は普段の優しい姿とは違い、幼い私に恐怖を感じさせるのに十分なほど、鬼気迫るものがあった。
私と3歳下の妹を除いて家族全員、私が起きてから寝るまで、ずーっと忙しそうに働いていた。ひょっとしたら、お父さんはほとんど寝ていなかったのかも知れない。それぐらい大変だということは、幼い私にも十分すぎるほど伝わってきた。
普段家のお手伝いをしていたお姉ちゃんも、みかんのお手伝いに冠してだけは色々と文句を言っていた
友達のマミちゃんなんかは、「お父さんとお母さんがとられちゃうから、みかんなんてキライ!」と言っていた。私も淋しさを感じていたから、マミちゃんの言い分もわからなくは無かったが、それでもみかんの事を嫌いになることなんて出来なかった。いや、むしろ小さい頃から、私はみかんが好きだった。
春に白くて可愛らしい花をつけ、冬には鮮やかな色の実をいっぱいに付けるみかんの樹と、そんなみかんの樹が並ぶ、私達のまちの景色が、私は好きだった。
年が明け、みかんの仕事がひと段落すると、お父さんもお母さんも、それまでの分を取り戻そうとするかのように私達姉妹を可愛がってくれた。
一人で食べるみかんも美味しかったけれど、お父さんのひざの上に座って食べるみかんは、さらに美味しかった。 「ウチのみかん、おいしいね!」
食べ終えたみかんの皮をこたつの上にうず高く積みあげてそう言うと、お父さんは冬なのに日焼けした肌と対照的な白い歯をのぞかせてこう答えた。
「そうだろう!ウチのみかんは日本一だからな!」
「 「アタシも、おおきくなったらみかんつくりたい!」
こう言った時、お父さんは一瞬驚いたような顔をして、お母さんとお姉ちゃんはなんだか困ったような顔をしていた気がする。
みかんの食べ過ぎでおなかがいっぱいになった私は、そのままうとうとと眠りについてしまい、その後のみんなの言葉は覚えていない。
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